2023年に東京大学大学院を卒業し、匠弘堂に入社した宮大工見習の渡部くん。
入社から7か月が経ったタイミングで、現在の仕事内容や心境の変化などを伺いました!
◆渡部くんの内定者インタビュー記事はこちら

【プロフィール】
京都府出身。東京大学大学院の木質材料学研究室を経て、2023年4月に匠弘堂に入社。

質問項目

  • この7か月で変化したこと
  • 全国青年技能競技大会京都府予選に挑戦されていかがでしたか
  • 仕事で特に大切にしていること
  • 入社前後で匠弘堂のイメージの変化
  • 直近の仕事内容と今後の目標

この7か月で変化したこと

――4月に入社されてから7か月が経ちますね。現在はどのようなお仕事をされているのですか。

渡部:様々な現場に入らせていただいているのですが、主に修復の仕事をしており、1件改築のお仕事も担当しました。最も長く入ったのは、滋賀県米原市にある上妙寺さんで、本堂の修復をさせていただいています。改築では、約2ヶ月間、先輩たちと共に広島県廿日市市の速谷神社さんの玉垣のやり替えを行いました。

――入社してすぐのお仕事は、どのようなことをされましたか。

渡部:初日は、代表取締役社長の横川さんに、神社への奉告参拝や、浄土寺に連れて行っていただきました。数日間、座学でのオリエンテーションがありましたが、その後はすぐに現場に出て、道具を使う業務が始まりましたね。上妙寺さんの修復の現場で、「ちょっとやってみるか。」と先輩に言っていただき、初めて鑿(のみ)を使ったことを覚えています。

――入社から数日で現場に入り、お道具も使うのですね。上妙寺さんの修復では、主にどの部分を担当されたのですか。

渡部:一度床をめくって、床下にある根太や大引といった骨組みの中で、悪くなっている部分だけ交換するという作業をやらせていただきました。
床下なので完成後は表からは見えない部分ではありますが、重要な部分なので、とても責任を感じる仕事でした。

――初めての現場での作業、きっととても緊張しましたよね。その日のことを詳しく聞かせていただけますか。

渡部:大学生の時に、趣味で鑿を使ったことはありましたが、仕事となると分からないことだらけでした。入社前から、匠弘堂では、比較的早くから道具を触らせてもらえると聞いていたので覚悟はしていましたが、入社後数日で道具を使った作業をさせてもらえるとは思っていませんでした。副棟梁の小滝さんに作業を任されたときは、正直喜びよりも「もう自分がやるのか。まだ何もできないのに……」という気持ちが大きく、緊張と恐れ多さを感じましたね。

小滝さんが指導してくださったのですが、まずは鑿を渡されて、「こう加工してね。」と、イメージだけ伝えられました。まずは自分なりにやってみると、そのあとに「のみの持ち方はこう、刃を入れる向きはそうじゃなくて、こうだよ。」と、フィードバックをしてくださいました。匠弘堂では、手取り足取り教えるのではなく、まず自分で考えてやらせてみて、その上で課題を伝えるというスタイルで先輩方が指導してくれます。

匠弘堂 社員

僕がすごいなと思ったのが、小滝さんは僕の作業をずっと見ているわけではないということです。ご自身のお仕事をされながらも、僕や、同期の猿渡の作業を把握していて、適切にフィードバックしてくださるのです。

――入社してしばらくは緊張していたとのことですが、しばらくしてからは、気持ちにどのような変化が出てきましたか。


渡部:場数を重ねていくにつれて、慣れというか、「これくらいなら自分でできる」という基準が見えてきたので、少しずつ自信はついてきたと感じています。自分でできるという基準自体がまだまだ低いのですが(笑)ただ、少し自信がついてきた頃には、さらに難易度の高い作業を任せてもらえるようになるので、要求される技術力がどんどん上がっていくという毎日です。

最初は、自分に何ができないかすらも分からなかったのですが、徐々に自分ができていない部分も明確になってきたので、さらに課題を感じています。


――技術面の変化は感じていますか。


渡部:確実に上達してきていると感じています。同時に、自分は特別器用なわけではないこともまた、分かってきました。現場での作業の中では、小さな失敗もたくさん重ねていて、最近任せてもらうようになった継手加工の作業では、材にかんなをかけすぎてしまったり、先輩が引いた墨に付けた補助線の精度が低く、加工に失敗したりしました。
その失敗から学び、次はもっとうまくできるように改善する、という繰り返しです。

基本的には、鋸(のこ)、鉋(かんな)、鑿(のみ)など、基本的な道具の扱い技術の向上に日々努めています。中でも、鋸の扱いが一番難しいと感じていて、材に真っすぐ刃を入れても、切った後がどうしても歪んでしまうんです。

全国青年技能競技大会京都府予選への挑戦

――入社して数か月後に、「全国青年技能競技大会 京都府予選」への出場という大きな挑戦をされたそうですね。通常の業務と大会の準備の両立は、大変だったのではないでしょうか。どのように準備を進められたのですか。

渡部:技能競技大会の課題は、制限時間内に図面を描き、木材を加工し、脚立を完成させるというものなのですが、今回は大会2か月前から図面を書く練習を始めました。その1週間後から、木材加工の練習も始めました。一度京都で有馬棟梁の授業を受け、その後広島の現場に入ったので、広島では仕事が休みの日曜日に毎週練習をしてから、本番に臨むというスケジュールでした。


大会では、7時間以内で脚立を作らないといけないのですが、最初は朝から12時間ずっとやっても全然終わりませんでした。練習を重ね、なんとか時間内に脚立を組み上げることが出来るようになりましたが、本番では、最後に天板が割れてしまいました。ですが、最初に比べると、完成品の精度が高くなり、時間も短縮できるようになったので成長を実感できました。

――大会に挑戦したことで、お仕事に対する意識に変化はありましたか。

渡部:そうですね。意識はものすごく変わりました。やはり、図面を描き、最初から最後まで全工程を自分1人で仕上げるので、何か不具合があれば全て自分の責任となります。その点で、自分の中で足りていない技術や視点を把握できる機会となりました。

また、時間制限があったことで、クオリティだけ、スピードだけでは駄目で、それらを両立させないといけないという意識は、とても鍛えられました。

全国青年技能能力大会

――品質や精度はもちろん、時間も意識しないといけないということですね。

渡部:はい。ある面だけ完璧でも、全体のバランスが取れていないと、脚立は組み上がらない。実際に、大会前は、業務において「失敗してはいけない」という考えが先行し、時間度外視で取り組む傾向がありました。まだまだ、技術の精度を引き上げないといけない段階ではありますが、大会を通して時間も意識するようになったのは大きな変化です。


ただ、大会後に時間を意識しすぎるあまり、焦って失敗してしまうことが続いたので、棟梁の有馬さんに、バランスを取ることの大切さを教わりながら、調整を重ねている最中です。
焦ってしまうと、墨がズレてしまったり、加工する部分を間違えたりという失敗が生まれます。自分の中では落ち着いているつもりだったのですが、出来上がったものに焦りが出ていると指摘されて気が付きました。
最終的には、「もっとうまく、もっと早く」作れるようになりたいです。

――来年の大会における目標を教えてください。

渡部:来年の大会にも出場を予定しているのですが、「壊れずに完成させる!」という目標を持って挑みます。図面を描くのが遅いと製作の時間が短くなるので、図面のスピードアップも必須ですね。

現場での通常業務での技術の向上が、大会での目標達成にもつながります。その逆も然りで、これは、有馬さんに言われたのですが、脚立を完成させる努力が、大会のためだけで終わってしまったらもったいない。脚立の製作を通して身につけたことを普段の仕事にも活かすことが大切です。意識を間違えると、大会のための技術研鑽になってしまうので、大会での目標達成も意識しつつ、視野を広げて、身に付けた技術を普段の業務にも活かしていきます。

匠弘堂代表取締役社長 横川

入社1年目でこの大会に出場させるのは、匠弘堂では異例の挑戦でした。(有馬棟梁の発案)
ただ、渡部も、同期入社の猿渡にも期待している分、チャレンジさせてみました。通常業務と並行しての準備・勉強が大変なのは毎度のことですが、見習い3ヶ月目でとりあえず形にできたのは嬉しい大誤算でした。来年はクオリティを上げて、是非リベンジしてほしいですね!

仕事で特に大切にしていること

――渡部さんがお仕事を進める上で、特にこだわっている部分や大切にしていることはありますか。

渡部:はい。自分のためのものづくりではなく、お客様がいらっしゃる「仕事」なので、自分が手掛けたものが、お客様の求めるクオリティになっているかを常に考え行動しています。

対価をいただいて仕事をしているので、自分の生み出すものが納得のいく仕上がりになったとしても、あまりにも時間がかかりすぎたのでは、その対価に見合わない。
相手がいることを意識して、未熟であってもいかに効率的に仕事ができるかを考え、道具の準備から作業まで取り組むことを大切にしています。
ただ、大会の振り返りのお話でもあったように、僕は時間を意識しすぎると焦ってしまうので、そこはまだまだ注意が必要です。

渡部さん 猿渡さん

入社前後で匠弘堂のイメージの変化

――内定者インタビューでは、匠弘堂のウェブサイトを見て入社を決めたとおっしゃっていましたが、入社前後で、ギャップを感じることはありましたか。

渡部:特にありません。匠弘堂に対してあまり先入観を持たずに入社したので、入社して出逢ったものをそのまま受け入れている感じだからかもしれません。
現場でのコミュニケーションにおいては、上下関係が厳しそうと思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、匠弘堂では、先輩方がとても温かいので、とても円滑です。現在は、僕は京都で仕事をすることが多いのですが、沖縄県の首里城の再建工事に年の近い若手の先輩が出張されているので、経験豊富な先輩方と話す機会が多いですね。毎日教わることだらけで、質問にもみなさん丁寧に答えてくださいます。

宮大工 渡部嵩大

直近の仕事内容と今後の目標

――直近は、どのようなお仕事に取り組まれているのですか。

渡部:京都府乙訓郡にある宝積寺さんの修復現場において、床の下の「足固め」という部分の継手(つぎて)を作る作業を担当しました。床板を貼ると見えない部分ではありますが、大変重要な工程です。
ある日突然現場で、「なべ、これできるか」と言われたのですが、難易度の高い作業だったため、入社7か月の僕に声をかけてくださったことに驚きました。正直「僕がやっていいのかな」と思いましたが、無理ですというのはもったいない。絶好のチャンスなので、今の自分にできることをやろうと腹をくくりました。期待されると、「頑張ろう」という気持ちが芽生えます。
自分で解決して挑戦することと、先輩に質問して教わることの線引きは難しいのですが、様々な作業に取り組む中で、覚えていくのだと思っています。

宝積寺 渡部嵩大

匠弘堂代表取締役社長 横川

実は、入社1年目で継手加工を任せるのは、今まではあまりなかったかも。
完成後には見えない部分とはいえ、野物(外から見えない部分)の継手を任せるのは入社3~4年目から。外から見える部分の化粧物の継手は、入社5年目以上でかつ腕前を認めた社員でないと、任せられない。
誰にでも任せるのではなく、社員の日々の動きや表情を見ていて、「この子は準備ができているな」と感じたら思い切って任せてみるようにしていますが、すべては有馬棟梁や2名の副棟梁の采配に任せています。

渡部:重要なお仕事を任せてもらえたのは、技能能力大会に出場したことが大きかったように思います。大会に向けた準備の中で、木材加工の練習もたくさんしていたので、先輩からは、それが今回の継手を任せる判断のひとつになったと言われました。

――内定者インタビューの際に、1年後の自分へのメッセージとして「常に学び続けて備える」ということを挙げられていましたね。

渡部:内定者インタビューでお話した時の「学び」のイメージは、業務後に勉強するような学びを想定していました。もちろんそれも大切なのですが、実際には実地で学ぶことが大変多いので、仕事をしながら学び続けているという感じです。休日も、趣味でもあるのですが、同期の猿渡君と神社仏閣を訪れ、学びを深めています。仕事と学びを分けることはなく、暮らしの中に自然に仕事も含まれているという感覚です。

――失敗から学ぶこともたくさんあると思いますが、失敗をした時の回復方法はありますか。

渡部:僕は、失敗をしたら実はずーんと落ち込むタイプだったんです。でも、匠弘堂で働き始めると、失敗をしても翌日にはまた新たに仕事があるので、引きずっている場合じゃない。強制的に気持ちが切り替わるんです。翌日に、同じ失敗をしないよう改善していく、その繰り返しが、気持ちの回復につながっていますね。「反省はするけど、後悔は引きずらない」姿勢です。

同じ失敗をし続けると、信頼を失ってしまう。でも、失敗をしたとしても反省し、自分なりに対策を立てて改善していけば良いのです。失敗をしないのが仕事ではなく、いかに失敗から学び成長するかが大切だと考えていて、それこそが、1年目の自分にできることだと思います。

――素晴らしいですね!最後に、今後の目標をお聞かせください。

渡部:そうですね。喫緊の目標は、もちろん基本的な技術を磨くことです。全般的に引き上げないといけない技術ばかりなので、そこを最優先で身につけます。その中でも、図面を描く技術など、勉強をすることで知識をつけられる分野に関しては得意ではあるので、その勉強も進めていきます。現場での大工技術力向上と、図面を描く技術を両輪で成長させられるよう取り組んでいきます!

新入社員 渡部さん

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