2022年4月23日、匠弘堂はアースデイ in 京都 実行委員会が主催するイベント「アースデイ in 京都 2022」に参加しました。

◆アースデイin京都
https://earthdayinkyoto.com/

毎年4月23日は地球のことを考え行動する、「アースデイ=地球の日」。2022年度のテーマは「捉え直し」。様々なワークショップ・物販・展示等を通して、豊かさや幸せについて今一度捉え直すきっかけとなるようなイベントでした。

匠弘堂では工房見学を実施。社寺建築や宮大工の仕事に関する講義やワークショップから、実際に道具を使用しての体験まで、多くの方にお越しいただきました。なかなか一般の方に働く姿をお見せする機会のない宮大工にとって、仕事の断片をお見せできるまたとない機会となりました。

本記事では、当日の様子を写真とともにダイジェストでご紹介。社寺建築の魅力はもちろん、匠弘堂の工房の様子もたっぷりお伝えします!

講義

講義を行う代表取締役の横川


はじめに社寺建築の魅力や宮大工の仕事について、代表取締役社長の横川より講義させていただきました。1000年以上の歴史と技術が継承されてきた社寺建築と宮大工。長い長い時間の経過はあれど、島国日本に豊富にある木材資源を最大限うまく活用して巨大な構造物を建てて保つ技術は、まさに世界唯一のもの。

アースデイというイベントの中でお話できたことで、社寺建築がずっと昔から修理前提でものづくりをしていること、それが今ある資源を大切にすることに繋がっているということを、より実感していただけたのではないでしょうか。

継手(つぎて)の模型に触れる様子


講義の中盤には継手(つぎて)の模型に触れていただきました。継手とは、釘を使わずに凹凸に加工された木材をパズルのように組み合わせることで接合する古くからの手法。

例えば「金輪継ぎ」と呼ばれる継手は、複雑な加工を施した2つの部材を合わせた箇所に作られた穴にぴったりの栓を入れることにより、部材同士が密接に合わさりとても強固になります。しかも、その栓を抜けば簡単に分解できるという構造が、修理を前提とした社寺建築には欠かせないものなのです。その強固さを出すため、栓は木目の向きまで意識して木取りされています。実際に模型に触れていただくと、小さな栓1本でそれができるということに驚きの声が続きました。

また、この「金輪継ぎ」が実際の社寺建築でも使われていることをお話しすると、「どのような部分に使われているのか」という質問がありました。様々な場所に適材適所で使われている多種にわたる継手ですが、腐った柱の足元の多くは「金輪継ぎ」という継手で修理され、大きな社寺建築を支えています。

ワークショップ

懸魚のトレース


講義後のワークショップでは懸魚(げぎょ)のトレースをしていただきました。
懸魚とは、勾配屋根が互いに合わさる部分にある妻飾りのひとつ。魚をモチーフに考えられた懸魚には火災から建物を守るという思いが込められています。

今回は特徴的な3種類の懸魚のトレースに挑戦。特に東寺の慶賀門に取り付く「魚尾形懸魚」はまさに魚の形をしているので、トレースしながらも自然と笑みがこぼれます。「猪目懸魚」のハートマークでは幸せな気分にもなれて。皆さんとても集中してトレースされ、終了後には「普段出来ないことなので面白かった」とおしゃっていただきました。

しかし、嬉しかったのは楽しく作業いただけたことだけではありませんでした。
後日、参加者の方がお寺を観に行った際に見た懸魚の写真をSNSに投稿したり、匠弘堂へ送ってくださったのです。

匠弘堂でお伝えした知識から社寺建築へ興味を持ち、見ることを楽しんでもらえるようになったのだと実感しました。社寺建築って、知れば知るほどおもしろいのです!

懸魚のトレースをする様子

工房見学

有馬棟梁が「継手」について解説をする様子


前半の講義に登場した「継手」について、後半の工房見学では実物大の修理模型を使った有馬棟梁による解説もありました!

実際に建物を支えていた柱の根継修理を再現した模型を、目で見て、手で触れて、体感することで、より一層古くから継承されている社寺建築の奥深さを感じていただけたのではないでしょうか。

「継手」を手にする有馬棟梁

上の写真は大阪城追手門の柱の根継ぎに使われている「バサラ継ぎ」です。栓を用いずに自重がかかると外れないようになるという、とても面白い巧妙な継ぎ手。当日は工房見学の様子も一部ライブ配信!全国各地から匠弘堂アースデイイベントへご参加いただくことができました!

続いては工房見学のメインイベント「大工道具体験」です!木材の表面を削り取る様々な大工道具: 釿(ちょうな)・槍鉋(やりがんな)・台鉋(だいがんな)を手に取って、実際に木を削っていただきました。

手斧を持つ有馬棟梁
置かれた手斧

まずは釿(ちょうな)。曲がった柄の特徴的な見た目のこちらは、木の表面をはつり取り凹凸を整える目的で使用されていた道具です。刃先を自分に向けて力を込めて振って使用することから、手に取ることを緊張されるお姿も見られましたが、ついつい「明日からうちで働きませんか」と誘ってしまいたくなるほど上手にはつられる方も。

つづいて槍鉋(やりがんな)。台鉋が登場する以前に木の表面を平らに仕上げるために使用されていた道具で、世界最古の法隆寺建立にも使われていた大昔からある鉋です。

槍鉋の刃自体が反っているので、刃先と木材との角度によっては削り屑がでないなど、うまく削るのが難しい一方で、その難しさも2回、3回と繰り返しチャレンジし存分に楽しんでいただくことができました。

槍鉋で削られる木材

槍鉋の体験も削るだけでは終わらず、自分の手で削った木の表面を実際に手で触れることで、仕上がった凹凸一筋一筋から手仕事の温かみを体感していただきました。

台鉋で木材を削る様子


最後は台鉋。大工道具の中でも一般に広く知られている台鉋は室町中期に登場したとされ、木の表面をより平らで滑らかに仕上げる道具です。槍鉋より容易とはいえ台鉋の鉋がけは見た目以上に難しく、手先だけでなく身体全体を使って一気に削る動きは、やはり修業が必要です。参加者全員、頑張って自分で削った鉋屑をお持ち帰りいただきました。

そして大工道具体験の中で、最も盛り上がったのが案内役の若手大工 稲葉の削ったこの場面。軽やかな鉋がけの様子や、鉋屑の薄さ、仕上がった木の表面の手触りの良さに「おお!」「つるつる!」とあちこちから驚きの声があがりました。

三手先の斗組模型

工房見学の締めくくりは三手先の斗組模型です!

三手先とは、斗(ます)と肘木(ひじき)を組み合わせた構造体の斗組(ますぐみ)を用いて軒の出をより深くするため、三段連ねた社寺建築特有の構造技術。

三手先の解説や、尾垂木(おだるき)がてこの原理を用いて大きな屋根を支えていること、参加者の質問に対して、コンベックスを指示棒のように用いて有馬棟梁からお話させていただきました。

普段は見ることのできない距離感や角度から、その構造をよく見てみようと上下左右、裏側からも様々な角度からご覧いただきました。

尾垂木

イベント当日、匠弘堂の工房では稲荷社のお社の修理が着々と進行中!

ちなみにこちらはあるお寺の境内にあるお社で、甚大なシロアリ被害に悩まされ、引き取りにいった際もまさに食害中だったものを引き取って修理中のもの。ご住職様からは「新しいものに造り替えてもいいかもしれない」とご相談いただくほどでした。

しかし、まだまだ健在な部材は大切に次の世代へ引き継ぐのが宮大工のものづくり。一度全て解体し、再利用できる部材を見極めます。今回、土台と屋根の下地で使用する材料は一新しましたが、その他の柱や板材はそのほとんどを再利用することが出来ました。

また、全く同じように元通りに修理をするのではないことも匠弘堂のこだわり。解体修理を行うこのタイミングだからこそ、良い状態で長持ちする工夫はもちろん、素通りできないようなかっこいいお社になるよう、屋根形状や細かな意匠もより良いものづくりを追及して修理を進めます。こちらのお社の修理の様子はInstagramでもご紹介中です。是非ご覧ください。

最後に

匠弘堂の工房見学は講義から体験まで、じっくりと社寺建築や宮大工の仕事の魅力を感じていただけるような内容となっております。匠弘堂は1300年以上の歴史をもつ伝統的木造建築技術を、絶やさずに次世代へ正しく継承することを、宮大工としての社会的役割のひとつとして考えております。今、私たちが100年耐えられる建物を造ったとしても、100年後に修理できる人材がいなければ朽ち果てていくのみです。

大量生産・大量消費の時代から待ったなしのエネルギー問題に対する危機意識がこれまで以上に高まっています。そんな今だからこそ我々は資源も技術も未来の職人も大切に守っていくことが、環境保護そして子どもたちの将来を守ることにも通じると信じております。今回はそのような思いを込めてアースデイというイベントに参加させていただきました。

イベント前と比べて、皆様にとって社寺建築が少しでも身近なものになり、地球とこれからを考えるきっかけになっていると幸いです。末筆ではありますが、ご参加くださった皆様に、心より御礼申し上げます。

匠弘堂では今後もこのようなイベントを通して社寺建築や宮大工の仕事の魅力を発信してまいりたいと思っております。また、弊社独自の工房見学などのイベントも時折開催いたします。

ご興味をお持ちいただける方は、是非ご参加お待ちしております!過去の工房見学の詳細につきましてはこちらをご覧ください。

◆工房見学
Design Week Kyoto
https://www.kyoto-shokodo.jp/interview/dwk2019_01/

https://www.kyoto-shokodo.jp/interview/dwk2019_02

◆オンライン工房見学
和える―オンラインサロン:学びの場
https://www.kyoto-shokodo.jp/column/report/event-report_aeru/