- 2012年
- 中学の修学旅行で訪れた法隆寺に圧倒され興味を持つ
- 2016年
- 大学進学で京都へ
- 2019年
- 匠弘堂とDESIGN WEEK KYOTOで出会う
- 2020年
- 匠弘堂入社
稲葉 耕介
1997年生まれの23歳、長野県松本市出身の稲葉。
神社仏閣に興味を持ったきっかけは、修学旅行で訪れた法隆寺でした。高校・大学と進路選択に悩みながらも、匠弘堂にたどり着いた稲葉。宮大工の仕事に出会うまでの偶然が生んだ軌跡と伝統を紡ぐ仕事について、真っ直ぐ生き生きと語ります。
法隆寺の圧倒的な存在感に魅せられた
親の仕事の関係で小学校1~2年はカナダで暮らしました。
帰国してから、自宅を新築することになったんです。通学路の途中に新しい家が建つことになり、毎日その様子を見続けました。何もなかった土地に土台ができ家が形作られていく過程が面白くて、建築に興味を抱くようになりました。
それから忘れられないのが、中学校の修学旅行で見学した法隆寺です。
法隆寺に向かう途中、遠くから初めてその姿を見て「え!こんなに大きいお寺なんだ…!」とまず圧倒されました。
到着後いざ中に入ってみたら、ずっしりとした重みを感じ「すごいところに来たなぁ…」と不思議な気持ちが溢れ出しました。伝統建築が持つ独特の美しさに魅かれたんだと思います。
DESIGN WEEK KYOTOで匠弘堂との偶然の出会い
高校3年生の時は、自分が何をやりたいかがなかなか決まらず…。憧れの「京都で大学生活を送る」ことを主眼にして、もともと興味を持っていた建築学科のある大学を選びました。
ただその当時は「どんな建物に関わりたいのか」という志望は全くなかったんです。
匠弘堂との出会いは本当に偶然。Twitterで「DESIGN WEEK KYOTO」の告知をたまたま見かけて、初めて名前を知りました。
「宮大工って面白そうだな」とピンときて、「オープンファクトリー」に申し込むことに。
当日はカンナ体験などをやらせてもらったんですが、想像以上に楽しかったんです。短い時間でしたが、実際の体験を通して「宮大工の仕事、本当にやってみたいかも!」と自分の胸が熱くなりました。
その勢いでイベント終了後解散する前に、横川社長に「新卒募集してませんか?」と直接質問しました。
※当時のオープンファクトリーの様子
横川社長は僕の思いを受け止めてくださって、インターンシップにも参加することになりました。
匠弘堂で試しに働いてみて一番ギャップを感じたのは、職人世界のイメージです。
当初「職人さんは怖い」という印象を抱いていましたが、匠弘堂の皆さんは親しみやすく話しやすい雰囲気で、取っつきにくい怖さが一切ないことに驚きました。
もちろん仕事に向かう姿勢は、とことん真面目で常に真剣そのもの。
優しさと厳しさのメリハリを感じられる空気が、とても心地よかったです。
ちょうどその頃、大学卒業後の進路選択に迷っており、就職しないなら…と大学院進学も視野に入れていました。
匠弘堂のインターンシップを通じて、会社の全体像や雰囲気を理解することができたので、「大学卒業後は、絶対匠弘堂に入社する!」と決めました。
なので、就活時期も他の会社については全く調べていません。正式に採用試験を受け、無事内定をもらったときは本当に嬉しかったです!
自分の大工道具を早く持てるようになりたい
初めての仕事は兵庫県尼崎市にある本興寺というお寺でした。
最初はとても緊張していて何から取り組んでいいのかわからず、つっ立っているので精一杯。
一緒の現場だった有馬棟梁に仕事を一つ一つ教えてもらいましたが、言われるがままにやることしかできず、少し不甲斐なさを感じたのを覚えています。
ただ仕事そのものは楽しく、大変とか辛いといったネガティブな感情はありませんでした。
特にワクワクしたのは玉田神社修理工事の現場で、拝殿の屋根に上って野垂木を交換した母屋に取り付ける作業です。先輩からお借りした鑿(のみ)を使って野垂木の角度に母屋の天端をハツリ取って行くのですが、まさか道具を使ってする作業を入社後1ヵ月でやらせてもらえるとは思っていなかったので、かなりテンションが上がりました(笑)。
日々仕事を教えてもらいながら、先輩たちの仕事ぶりを見ていると「もっといろんなことができるようになりたい!技術を磨いていきたい!」と強く思います。
今は「自分の大工道具を持てるようになる」ことが目標です。
何百年の歴史がある柱には代わりがない
最近は、柱の埋木(木の腐った部分を切って、他の木材で埋めて仕上げること)をさせてもらえるようになりましたが、とても緊張する仕事です。
お寺の柱一つひとつには、何百年もの歴史が刻まれています。通常の部材とは異なり、代えが一切きかないものなので、傷付けたり失敗したりするわけにはいきません。
柱に触れるたびに、歴史の重みを感じるので、自ずと丁寧に仕事をすることの大切さを理解するようになりました。
良い宮大工になるためには「徹底した段取り力」が必要
入社直後は、仕事をどう進めればいいのかわからず、先輩たちに聞いてばかりでした。
ですが、半年たって「ただ言われたことをやっているだけでは、良い宮大工にはなれない」ということに気付きました。
宮大工の技術は、長い歴史の中で培われてきたものです。匠弘堂の先輩方は、先人の技術一つ一つを理解しながら、徹底した準備の中で仕事を進めていきます。
ただ目の前にある仕事をこなすだけでは成長できないなと。
神社仏閣の由緒や経緯を理解したり、竣工後の形を想像して良い準備をすることが、宮大工に必要な仕事力なのかもしれません。
仕事中に気付いたことは「作業日誌」に記して、時々振り返るようにしています。この「作業日誌」は、初出勤した日に横川社長から見習いの日課として与えられた課題のひとつです。そのおかげで、最近は自分で準備の意識を持てたり、次の段取りを考えて実行したりするようになりました。
まだまだうまくいかないことも多いですが、少しずつ「段取り力」が身についてきたかなと思います。いつか先輩方のように、完璧な準備をして無駄のない仕事ができるようになりたいです。
「直接伝統に携わる喜び」を伝えたい
匠弘堂に入社してすごいと思ったのは、設計と大工の連携がとれているところです。お互いがすぐ相談できる環境も心強いですし、現場に入る前段階で何をすべきなのかが見えているんです。とにかく良い仕事を手掛けるためのこだわりだと感じました。
一方、日本の伝統を守る仕事には、まだまだ後継者が足りないのかなと思うこともあります。
もし社寺建築に興味があるなら、職人さんが怖そうというイメージに惑わされず、匠弘堂に一度来てみてほしいですね(笑)。
高校卒業でも大学卒業でも進路を迷っていましたが、漠然と興味を持っていた神社仏閣を守る仕事に関わっているなんて、自分でも驚きです。偶然出会った匠弘堂に、直感を信じて飛び込んで良かったと思います。
「伝統に直接携わっている」という喜びや緊張感は、今の僕にとってかけがえのないもの。
いつか「自分の手で日本の伝統を守っているぞ」と胸を張って言えるよう、目の前の仕事を大切に、真面目に生き生きと取り組んでいきたいです。
今後の意気込み
自分の大工道具を持ち、技術を磨いてもっと自分の手で伝統を守っていきたい