2019年10月6日、新潟県三条市で開催されたイベント「燕三条工場の祭典」内オフィシャルイベント「産地の祭典」にて、「産地の祭典トークショー 道具の使い手 × 作り手 〜宮大工と鑿(のみ)鍛冶〜」が行われました。
このトークショーでは、三条ものづくり学校の事務局長である斎藤広幸さんの司会のもと、三条市の鑿鍛冶・田齋道生(たさいみちお)さんと弊社の棟梁・有馬茂(ありましげる)が登壇し、道具づくりや宮大工の仕事についてさまざまなトークを行いました。後編は、お互いに対する質問や、会場からの質問、そして後継者についての話を中心に紹介します。
◆燕三条 工場の祭典
https://kouba-fes.jp/
◆産地の祭典
https://sanjo-school.net/?p=16640
毎年10月に新潟県燕三条地域で開催されるイベント。工場・耕場・購場など、さまざまなKOUBA(こうば)を開放し、金属加工や鍛冶、木工などものづくりの現場の見学、体験ができる。
【プロフィール】
斎藤広幸さん……三条ものづくり学校事務局長
田齋道生さん……鑿(のみ)鍛冶田齋 二代目
有馬茂……匠弘堂 棟梁
(写真は左から順に、斎藤さん、有馬、田齋さん、当社代表取締役社長・横川)
※以下、敬称略
棟梁・有馬目線から見た、社寺建築を楽しむポイント
斎藤:田齋さん、有馬さん、お互いに質問や聞きたいことはありますか?
田齋:お寺さんとか神社に行ったときに、ここを見るとちょっとツウだなあとか、職人さんの腕がわかるとか、感動するよなどのポイントはありますか?
有馬:歴史などをちょっと勉強してから見るといいと思います。
たとえば、神社などの柱や壁などには「錺金物(かざりかなもの)」という装飾用の金物がつけられています。錺金物にはさまざまな形があって、年代ごとに流行りがあります。この年代はこういう装飾が流行ったなどの時代背景を知っていると、面白いと思います。
たとえば二条城や西本願寺なんかは、こういう錺金物が多いんです。
photo by ktnoontea777 写真AC
だけど、それよりも前の時代の建物はシンプルで、建物そのもののバランスを追求したものが多いんですね。宇治市にある宇治上神社さんとかそうですね。
photo by Jim G
建物にも、和様(わよう)、唐様(からよう)折衷様(せっちゅうよう)っていう大きな分類があるので、こういうところをちょっと勉強して知識を得ておくと、面白く見ることができるかもしれません。
楔(くさび)の打ち方に見える宮大工のこだわり
田齋:楔(くさび)の打ち方にも作法があると聞いたことがあります。
有馬:作法というか……そうですね。そもそも、楔をなぜ打つかから説明しましょう。
伝統的な工法で建物を建てる場合は、柱同士を連結させるために柱と柱の間に水平に貫(ぬき※)と呼ばれる横木を刺します。でも、穴に通しただけでは、たとえば地震などがきたときにその貫が動いて緩んでしまうんですね。
そこで、緩まないように貫に欠き込みを作って、柱に落とし込むようにするんです。落とし込むと、上にちょっとした空間ができます。この空間を埋めるために入れるのが、楔です。
ところが、貫が緩まないように楔を打とうとすると、見た目があまりかっこ良くならないんです。だから、見えないところは抜けにくいように楔を打って、見えるところにはダミーというか、意匠としての楔を打つことがあるんですね。(図参照)
図:横川
斎藤:そういったところを見ると、ツウっぽいのでしょうか?
有馬:そうかもしれませんが……私はこのやり方でやってきたので、これが普通なのか特別なのか、ちょっとわからないんです。うちの社長なんかはよく「みんなに見てもらう、一番いいとこなんだよ!」って言ってますけどね(笑)
鑿(のみ)鍛冶・田齋氏が考える、鍛冶屋と大工それぞれの「味」
有馬:最近、大工も道具の素材に詳しくなってきて、たとえば白紙や青紙(※)がいいなど言うようになってきたと思います。私自身は、作り手さんがいいと言う素材が一番いいと思っているのですが、鍛冶屋さんとして、こういう素材に詳しい大工についてどう思っていらっしゃるでしょうか。
※日立金属株式会社が開発した鋼「ヤスキハガネ」の種類
田齋:素材についてですが、私は主に日立金属の鋼を使っていて、その良さを100%活かせるように仕事をしていますし、この鋼の品質には絶大の信頼を持っています。ですが、ほかの鋼については100%は良さを活かせないので、お断りすることが多いですね。どうしてもという場合は、秘伝の体を最大限使って作りますが(笑)
切れ味という言葉がありますが、「味」には合う合わないがあると思うんです。大工さんもそうだけど、鍛冶屋さんにもそれぞれの味がある。同じ鋼を使って作っても、うちの味は合わないけど、ほかの鍛冶屋さんの味は合うということもある。
だから、うちの味が合わない場合は、ほかの鍛冶屋さんの味を試してもらったらいいんじゃないかな、という気持ちはあります。
有馬流・電動工具と伝統工具の使い分け方
斎藤:ではここで、会場の方からもなにか質問があれば受け付けたいと思います。どなたか、おふたりに質問がある人はいらっしゃいますか?
会場の参加者:有馬さんに質問です。道具を選ぶときのポイントは何でしょうか。また、最近は伝統建築の世界にも電動工具が入っているそうなのですが、電動工具でやるところ、手作業でやるところはどうやって線引きをされているのでしょうか。
有馬:まず、道具選びについてです。大工になりたての頃は、自分が買えるか買えないか、つまり金額がポイントでした。ちょっと余裕ができた頃は、小売店の方やほかの大工の方の評判を聞いて選ぶようになりました。
田齋さんの鑿を最初に買ったのはもう22~3年前です。知り合いの大工さんが買ってきてくれたものです。最近は、オーダーメイドというか、「この仕事でこういうものか必要だ」という話をして、それに合わせて作っていただけるところにお願いしています。
電動工具についてですが、予算と工期が決まっている中で効率よく仕事するためには電動工具を使う場面も出てきます。でも、手作業でないとできない作業も多いんです。超仕上げという加工があるのですが、これは手鉋(てがんな)でやると光沢はもちろん、撥水効果がまったく違います。
あとは、面白さ、モチベーションですね。丸柱は大きなろくろのような機械を使って作ることもできるのですが、これは手作業でやったほうが面白いんです。せっかく宮大工になったのに、こういう面白いところを機械でやるのはつまらない。うちでは、まさかりや手斧(ちょうな)などをなるべく使って、こういう面白い作業は手作業でやろうとしています。
面白い手作業を省いていくと、仕事のモチベーションも下がるんですよ。モチベーションが下がった状態でいいものを作れるのかなあと、私は思っています。いいものを作る、モチベーションを大切することを考えて、使う場面を決めてます。
どう後継者を育て技術を継承していくか?
斎藤:最後に質問させていただきたいのですが、後継者の育成などについてお聞かせいただけますか?
有馬:私が大工になった頃は、若い人は少なかったんです。早う仕事を覚えろ、3年の間に覚えろ、なんて言われて、本来10年目くらいにやるような仕事も前倒しでどんどんやりました。
若い子を指導する立場になった今は、なるべく自主性を大事にしています。自分で練習のカリキュラムを考えて、どこが問題で、どこが自分に足りないのか、どうしたらいいものができるのかを、自分で考えるようになってほしいなと。そして、なるべくチャンスを与えて、技術を伝承していけたらいいなと考えています。
田齋:私自身の後継者については、まだちょっと考えていないんです。今50歳なんですけど、下の世代に教えるよりも、私が覚えてきたいことのほうがいっぱいある。だから、もうちょっと考えたくないってのが現状です。
ただ、三条市の行政などが行っている構成者育成事業には、三条鍛冶道場、鍛冶集団の一員として協力しています。この活動を通じて、できるだけ多くの若い人に鍛冶の技術などを覚えていただきたいと考えています。
こういう技術は一子相伝がいいと思っているのですが、最近は少子化の時代なので(笑)3~5年後には後継者について話すことかできるようになればいいですね。