匠弘堂が手がける宮大工の仕事を、様々な角度から紹介するスペシャルインタビュー。第3回は、社寺建築の仕事においては欠かせない左官屋さん(壁・漆喰を手がける職人集団)の丸浩工業代表・村上一博さんと、匠弘堂2代目棟梁の有馬による対談をお届けします。

株式会社丸浩工業 代表取締役 村上一博さんと有限会社匠弘堂 専務取締役/棟梁の有馬茂

【プロフィール】
村上一博さん……株式会社丸浩工業 代表取締役(写真左)
有馬茂……有限会社匠弘堂 専務取締役/棟梁(写真右)

【株式会社丸浩工業について】
京都市伏見区に本社を構える、大正14年創業の左官会社。現場仕事のみならず京都の左官技術を駆使した製品開発に取り組んでおり、京都大学防災研究所と金沢工業大学と共同開発した「荒壁パネル」がオリジナル製品。高い耐震性と調湿性・断熱性を持つ荒壁パネルは社寺建築だけではなく京町屋や一般住宅向けにも広く導入されており、京都を代表する左官職人集団として認知されています。

http://www.maruhiro.jp

「守るべきもの」と「変えていくもの」のバランスの難しさ

村上一博さん

村上一博さん(以下、村上):匠弘堂さんと初めて仕事をしたのは、15年くらい前になりますかね。最初は、大手ゼネコンの下請け案件だったと記憶しています。大小合わせて、これまでに10軒以上の建物を一緒に手がけさせていただいていますよね。

有馬茂(以下、有馬):そうですね。当時は、まだ阪神大震災の爪痕が残っているような時代でしたから、鉄骨やRCといった建築物が増え、木造建築がとても少なくなった時期でした。それに伴って、丸浩工業さんが手がける「土壁」も、新築案件に関してはほぼゼロという状態だったことを覚えています。

正直、当時はあまり接点が多くなかったこともあって、左官屋さんに対して「どこの会社も同じようなものだろう」と思っていた節がありました。

ただ、一緒に仕事をさせていただくうちに、丸浩工業さんは違うと気づいた。……というのが、震災から時間が経つにつれ、木造の建築が再び増えてきたんですよね。そうすると土壁も増えますから、左官屋さんのお仕事を間近で見る機会も多くなってきて。そこから少しずつ、丸浩工業さんのすごさというのが、私たちにも分かってきたんです。

たとえば、補修の仕事ひとつとっても、丸浩工業の職人さんたちは本当に勘が鋭い。伝統的な建築物に対して、古くから使われている建材で対応することができるのはもちろん、きちんと新しい建材も扱える。そのバランスが素晴らしいと思いましたし、私自身の理想とする仕事のスタイルにも合っていたんですよね。

村上:ありがとうございます。ちょうど匠弘堂さんとお仕事をし始めた15年ほど前に、現在は当社の主商品になっている「荒壁パネル」の開発・販売を開始したんです。

私たちの仕事は、時に国宝や重要文化財と呼ばれるものも扱いますよね。そういった建築物を修繕させていただくときは、当然、伝統的な技術を用いて、材料も当時のものを使う必要があります。しかし、コスト面も含めたお客さまからの要望に応えつつ会社を存続させていくためには、伝統を重んじる一方で、新しい技術の研究も欠かしてはいけない。その難しさには、いつも悩まされます。

有馬茂

有馬:本当にそのとおりですね。匠弘堂も、若い宮大工の力で技術の伝承に取り組んでいますが、「守るべきもの」と「変えていくもの」の線引きは、私たちが見極めていかなければいけないと日々考えています。

村上:でも、匠弘堂さんはそのバランスがとてもいいですよね。職人さんが皆若くてエネルギーがあり、楽しそうにお仕事をされているけれど、その中にも、先代の岡本棟梁の教えや技術がしっかりと引き継がれているという印象があります。

有馬:ありがとうございます。そう言っていただけると嬉しいですね。

建物は、大工だけでは作れない

丸浩工業の職人 中村さん

有馬:技術と言えば、丸浩工業さんには、「漆喰を塗らせたらこの人以上の職人はいない」というような、すごい職人さんがいらっしゃいますよね。

村上:社員の中村のことですね。彼は技能大会で優勝した経験もあって、当社の技術を支えてくれる貴重な職人のひとりです。仕事以外の場ではお酒も飲むし、普段はわりと喋るタイプなんですが、仕事のときはとにかく無駄口をきかず黙々とやるんですよね(笑)。

有馬:本当に喋らずテキパキと仕事をされますよね。それに、職人さんの腕が素晴らしいのはもちろん、彼らをまとめた上で、匠弘堂の宮大工たちとの架け橋役になってくれる方もいる。私たちが現場で下地を組むときには、材料の選び方といったノウハウを丸浩工業の皆さんが惜しみなく、優しく教えてくれるので、本当に助かっています。

村上:現場では、大工さんの実現したいイメージを徹底的に具現化できるようこだわっています。もちろん、よりよい方法が思い浮かべば提案をすることもありますが、基本的には大工さんの意向を尊重し、ベストな物件を作っていきたいなと。

有馬:いつも本当にありがとうございます。建物は決して大工だけではできないもので、特に社寺建築の業界においては、左官屋さんとの協業は欠かせない。最後の仕上げで左官屋さんにピシっとした仕事をしていただけるからこそ、初めてよい物件ができあがるんです。

「元請けだから、下請けだから」とか「大工だから、左官屋だから」という役割や立場の壁を超えて、これからもよりよい物件を作っていきたいですね。

左官や宮大工の仕事を、京都の伝統技術として残すために

村上一博さんと有馬茂

村上:ところで、左官の業界に限らず、若い人の少なさにはどこも悩んでいますよね。私は京都左官協同組合の理事長をしているのですが、2018年に、組合を「京左官」というブランドで団体商標登録したんです。

有馬:商標登録! 存じ上げなかったです。

村上:「京畳」や「京瓦」と同じように、京左官の仕事を「京都の伝統技術」及び新左官として、次の世代に残していきたいなと。ですから、匠弘堂さんがどんどん若い職人を採用していることは羨ましいですし、負けられないな、とも思っていますよ。

有馬:ありがとうございます。技術を次の時代に紡いでいくことは、先代の岡本棟梁の頃からなにより大切にしてきた価値観なので、「京左官」の取り組みもぜひ応援したいです。

村上:技術というのは、ただ、そのままのものを次の世代に残せばそれでいいというわけではないから難しいですよね。いま、400年前と同じやり方で仕事をすることが、必ずしも伝統の継承に繋がるわけではない。

有馬:本当にそうですね。ただ昔を真似るだけでなく、いまの時代の技術の優れている点を、臨機応変に加えていくことが必要だと思います。

村上:臨機応変な対応というのは、土台があるからこそできるものですよね。伝統的な建材や技術の知識は当然持ちつつ、そこに敬意を払いながら、少しずつ革新を加えていけたらと思っています。

おわりに

村上:匠弘堂さんのような新しくて若いパワーに溢れた会社は、もっと世の中に知られてほしいですよね。匠弘堂さんだからお任せしたい、という人は、これからもっと増えてくるんじゃないでしょうか。

そんな匠弘堂さんが手がける仕事の中で、これからも私たち左官屋に思いきり力を出させてほしいなと思っています。

有馬:ありがとうございます。繰り返しますが、大工だけでは絶対に建物は作れないんです。左官屋さんをはじめとした、さまざまな職人さんの思いと技が集まって初めてよい建築物が生まれます。

私の理想は、「職人の力が100%出せる環境を作る」ということ。これからもぜひ、よりよい仕事を一緒に求めていきましょう。

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