2023年に大学を卒業し、匠弘堂に入社した宮大工見習の猿渡くん。入社から8か月が経ったタイミングで、現在のお仕事内容や心境の変化などを聞いてみました!
同期入社の渡部くんと、切磋琢磨しながら日々の業務に取り組んでいます。

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【猿渡光一プロフィール】
長崎県出身。大阪府立大学 工学域機械系学類 機械工学課程を経て匠弘堂に入社。

質問項目

  • 入社から8ヵ月間の仕事内容
  • 「全国青年技能競技大会 京都府予選」への挑戦
  • 仕事で大切にしていること
  • 今後の目標
  • プライベートの過ごし方

入社から8ヵ月間の仕事内容

――4月に入社されてから8か月が経ちますね。まず今のお気持ちを聞かせてください。

猿渡:ありがたいことに、とても楽しみながら仕事をさせていただいています!技術面は、少しずつではあるものの上達していて、任せられる作業内容も増えてきました。

――どのようなお仕事を担当されていますか。

猿渡:同期入社の渡部さんと同じく、滋賀県米原市にある「上妙寺さん」で、本堂の修復をさせていただき、その後、約2ヶ月間は、広島県廿日市市の「速谷神社さん」の玉垣のやり替えを行いました。

初めて行った上妙寺さんでは、瓦屋根の下地となる野地板を交換する作業と、床組の解体補強でした。

特に屋根瓦は従来の土葺きから桟瓦葺きに替えをするために、単に野地板の張替えだけでない精度が要求される作業でした。

また床組の解体作業では、まず既存の床板を剥がし、中の落ち葉や木くずの掃除をしたのですが、4月中ごろに小滝副棟梁からの指示で、副棟梁自身の道具を借りて仕事をさせてもらいました。
正直「え、もう?」と、驚きました。

具体的には、床組を構成している大引(おおびき)や根太(ねだ)という部材の修復が必要な箇所を、鑿(のみ)や鋸(のこ)を使って削り取ったり切ったりする作業です。

――初めての大工道具を使った作業、やってみていかがでしたか。

猿渡:やっぱり、難しかったです。
大学の専攻は機械工学学科でしたが、たまに日曜大工はしていたものの、本格的にプロの道具を使うのは初めて。
鑿でタテに木を割る際、どのように刃を入れるとどう割れが進むかなど、「木の性質」や「道具の正しい使い方」が分からなかったので。一つひとつ動作の意味を確かめながら慎重に作業を進めました。

6月から担当した広島の速谷神社さんでは、透き塀の再建を行いました。
古い塀を撤去し、先輩方がすでに加工済みの部材を現地で組み立てていくという作業です。

僕は、先輩方が水平に塀を立てられるよう、セメントやモルタルで基礎を整える仕事に携わりました。木工事以外の基礎工事でしたが、やはり全部難しかったです。

渡部さん 猿渡さん
速谷神社さんにて、同期の渡部くんと

――初出張の広島での2ヶ月半、いかがでしたか。先輩と寝食を共にするのですよね。

猿渡:オンもオフも含めて、出張もめっちゃ楽しかったです!!
仕事においては、大きな建物ではなく塀とはいえ新築なので、古い塀の解体から始まり、基礎から完成までの一連の流れが理解できました。

もともと料理が好きということもあり、仕事以外では、僕と渡部さんが担当するお料理の時間が、とっても楽しかったです(笑)
速谷神社さんでの工事中の寝泊りは、2013年に匠弘堂が修理工事を担当した神社内の「斎館」を使わせていただいたのですが、日曜日以外は新人が三食とも全員分の食事を作ります。現場がすぐそばなので、移動時間がなくしっかり自炊ができ、とても健康的に過ごせました!

「全国青年技能競技大会 京都府予選」への挑戦

――8月に「全国青年技能競技大会 京都府予選」への出場という大きな挑戦をされたそうですね。仕事と準備の両立は、大変だったのではないでしょうか。※技能競技大会では、7時間内に図面を描き、木材を加工し、脚立を完成させ出来栄えを競います。

猿渡:広島出張中、仕事が休みの日曜を脚立作成の練習にあてました。夕方には、先輩がアドバイスをしに来てくださり、ありがたかったです。また、出張中も数回京都に戻り、大会向けの講習にも参加しましたね。

予選会本番では、制限時間である7時間以内になんとか脚立が完成し、ホッとしました。実は、大会一週間前の最後の練習では、制限時間内に完成させられなかったんです…。2時間もオーバーしていました。

本番までに4脚製作したのですが、1つ目は、9時間かかっても組み立て始めることすらできず、2つ目は15時間かかってやっと組み上がるという状態で。
脚になる材料の断面を、長方形から平行四辺形に加工する工程に、最も時間がかかっていました。
正直、「本番でも完成無理だろうな」と思っていたのですが、本番では加工が早く進み、モデルスケジュールに近い時間配分で完成させることができました。

全国青年技能競技大会京都府予選
全国青年技能競技大会 京都府予選の様子
本番で脚立を組み上げる様子



――本番では、練習の成果がしっかり出たのですね。時間内に完成、すごいです!予選大会に出場されていかがでしたか。お仕事に変化などありましたか。

猿渡:入社1年目の早い段階で、大会に出場させていただき、本当にありがたかったです!
大会の準備のために、基本の大工道具である鑿、鋸、鉋、毛引(けびき)を、早くに揃えることができ、使う練習もできました。
こういった道具は会社から支給されるわけではなく、先輩方の助言も得ながら自分たちで選んで購入します。鉋は、棟梁の有馬さんにおすすめを伺い、2つ購入しています。

それら道具を使い、木の加工の練習もたくさんできました。
脚立製作では、天板に鑿で穴を開け、斜めに脚を差し込みます。材に真っすぐの穴もあけたこともない中、斜めの穴を加工するのは至難の業でした。何度も木が割れて失敗しましたが、練習を重ねる中、「こう鑿を入れたら割れる」など、失敗事例が溜まり、それを改善することで技術が上達していき成長を感じることができました。

実際の仕事現場では、重要な部分の木の加工はすぐに任せていただくことは難しいので、入社間もなく、大会参加で木材加工の練習・実践ができたことは、大変貴重な経験になりました!

大工道具の手入れを入念に行う


――来年の大会における目標を教えてください。

猿渡:精度を上げたいですね。大会で上位の方は、経験がある大工さんたちばかりでした。その方々の脚立と比べると、自分の脚立は、ホゾと脚の接合部分に隙間があったり、脚立が真っ直ぐ立たなかったり、まだまだ精度が低い。材の加工を美しく仕上げ、精度を上げることを目標にしています!

――入社1年目から大会に出場したり、早くから現場での木材加工の仕事を任せてもらったりと、会社からの期待がとても大きいですね。期待されていることに対してはどんな気持ちですか。


猿渡:大変ありがたいです。やらせていただけることには、どんどん挑戦したいと思っています!僕は、根っからポジティブな性格なので、期待されてもあまりプレッシャーを感じず「まずはやってみるぞ」という姿勢でいます。

まだまだ失敗することもあります。失敗をすると、「ああ、なんてしょうもないミスをしたんだ…」と思いますが、まだ入社1年目。最初から完璧にはできなくて当たり前という気持ちで、悪い点を反省したらすぐ気持ちを切り替えています。

あるテストを受けた際に、僕は匠弘堂内でずば抜けてストレス耐性が強かったんです(笑)いつも前向きに取り組めるのは、取り柄なのかもしれません。

匠弘堂代表 横川

彼が学生の時に会社説明会に来てくれ、そこから新人採用の応募、面接、筆記・実務試験とずっと見てきましたが、彼の積極的で前向きな姿勢は最初から感じていました。
特に会社説明会では一番先に着いて真ん前に座っていたり、面接時の自己アピールも凄まじかった(笑)。
そんな猿渡君は有馬棟梁とも納得の合格採用でしたね。

――いつもニコニコ、ポジティブな猿渡さん、素敵です!直近のお仕事は、どのようなことをされていますか。

猿渡:京都府乙訓郡にある宝積寺さんの修復現場で、床の下の「足固め」という部分や、屋根裏の継手(つぎて)の刻み加工を担当しました。完成後は外から見えない部分ではありますが、構造上も大変重要な部材です。

柱の根継ぎ作業では、柱の根っこ部分が腐っているところを、新しい木材に入れ替えていくのですが、その木材同士の接合部分に目地や千切栓(ちぎりせん)の刻みを入れていきます。
どちらの刻み作業でも、初めて本格的に自分の道具を使うことができました。

根継ぎ作業
柱の根継ぎ作業



屋根裏では、「追っ掛け大栓継ぎ(おっかけだいせんつぎ)」という継手を4箇所作らせていただきました。この継ぎ方は、野物材の長い材を継ぐ必要のある場所でかつ、強度の必要な場所に適しています。

「追っ掛け大栓継ぎ」の対の部材を加工する必要があるのですが、初めは1日かけても片側すら完成しませんでした。少しずつ早くなり、約8時間で片側の加工ができるようになりましたが、先輩方は僕の4倍くらいのスピードで加工されています。
まだまだ加工スピードは遅いですが、技能大会での練習が少しずつではありますが現場で役立った実感があります。

24年1月からは、沖縄県の首里城の修復工事に参加します。僕は、木材加工や建て方(組み立てる作業)を担当させていただく予定です。

仕事で大切にしていること

――お仕事を進める上で、大切にしていることはありますか。

猿渡:はい。仕上げの美しさだけでなく、早く手を動かすことを目標にしています。
入社して半年ほど経った頃、棟梁の有馬さんから「見習いとはいえ、お客様からお金を頂戴して仕事をしている。その日当に見合う価値を生み出しているか。」というお話がありました。
それまでは、言われたことを一生懸命やり、先輩方に付いていくだけで精一杯でしたが、以降は時間配分や効率も意識しながら仕事に取り組んでいます。

――仕上がりの美しさと、スピードのバランスを取るのはなかなか難しそうですね。
現場では先輩と一緒ですが、先輩方とのコミュニケーションはうまく行っていますか。入社前後でギャップなどがあれば、教えてください。

猿渡:ありがたいことに、とっても可愛がっていただいています(笑)
入社前は、職人さんの世界は外から見てもよくわからないので、「入社してどんな世界なのか見てみたい」という気持ちがありました。もっと厳しい世界なのかと想像していましたが、匠弘堂の先輩方は、優しく心が温かい方ばかりです。

業務に関しても、入社前は新人は掃除などがしばらく続くものだと思っていましたが、先輩から早い段階で木の加工などをさせてもらえて、ありがたく思っています。
早く技術が習得できることが、とても嬉しいです。

匠の祭典
有馬棟梁、小滝棟梁と、新人2人

今後の目標

――内定者インタビューで、「最初の1年の修業期間を通して、目指すべき宮大工像を見つけたい」とおっしゃっていましたね。

猿渡:目指すべき宮大工像はまだ見つかっていないのですが、入社から1年経つ頃には、見つかっているといいなと思います。

ただ、先輩方の仕事を拝見していて、見習いたい部分はたくさんあります。
特に「品質へのこだわり」です。自分では奇麗に仕上げたつもりでも、先輩の手直しを受けることが多く、自分には気が付けていない、見えていない部分がまだまだあります。

現時点では、指示の理解が足りなかったり、理解ができても求められるアウトプットができていなかったりすることで、二度手間が発生することなどがありますが、その点を早急に改善していきたいです。

プライベートの過ごし方

――お仕事のお話をたくさん聞かせていただき、ありがとうございました!最後になりましたが…プライベートではどのように過ごされていますか。

猿渡:入社後は、仕事にも役立つので、意識的にお寺・神社巡りをしていますね。
実際に寺社を見て勉強して、分からないなりに数を見て、感覚を掴むのも大切なことだと考えています。

あと、パン作りにもハマっています!同期の渡部さんにも食べてもらいました(笑)
最近のブームは、「手間のかかるものを作ること」。僕は料理に限らず「作る」ことに喜びを感じるタイプなので、作る工程に興味があるんです。

渡部さんに誘ってもらって、ボルダリングもやりました。よく一緒に遊んでいます!

匠弘堂代表 横川

まだ1年目なので知識や経験が伴っていないところがほとんどなんですが、向上心に対する意欲が異常なほど高いので、昆虫の完全変態のようにいつか突然化けるかも、と思うととても楽しみな人材です。
そして彼の最大の武器は「愛されキャラ」かな。匠弘堂には腕のいい先輩が多いから、たくさん吸収してたくさん実践を積んで、自分の腕を磨いていってほしい期待の星です!
猿渡